映画 Schwesterlein、Petite Sœur、妹

先月公開された映画、Schwesterlein(独)Petite Sœur(仏)、「妹」を観てきました。

監督と脚本はStéphanie ChuatとVéronique Reymondの二人のローザンヌ出身の女性。10歳で出会った学校時代からの友人で共同で監督しています。2分違いで生まれた双子の兄(Sven)と妹(Lisa)を演じるのはドイツ演劇界の寵児Lars EidingerとNina Hoss。彼らの母をバーゼル出身でMETオペラの演出までも手掛ける重鎮Marthe Keller。Berlinの演出家Thomas Ostermeierが本人役、演出家の役で出ています。

40代と思われる兄Svenは舞台俳優ですが白血病に冒され、妹Lisaの骨髄を移植します。退院後ベルリンの母の家で療養する予定が齢を取った母の言動が怪しく室内も散らかり放題なので、急遽Lisaが家族と暮らすスイスのLeysin(レザン・スイスだけどフランス語圏)で過ごすことにします。

Lisaは劇作家ですが、夫の仕事でスイスに来てからは作家活動が滞っています。Leysinはスイスの南西部、Aigle(エーグル)からラック付きの小さな鉄道でガタゴトと上って行った終点に位置しています。19世紀から結核患者を収容するサナトリウムが多数つくられました。風立ちぬの世界ですね。Lisaの夫もSvenに療養にはいいところだよ、と言います。1946年にはサナトリウムが80軒以上もありました。第二次大戦後、特効薬が出来て結核が不治の病ではなくなってからは、ロープウェーやリフトがつくられ山岳リゾート地に生まれ変わります。冬はスキー、夏はハイキング天国です。今年の1月にあった冬季ユースオリンピックの競技の会場の一つでもありました。今では瀟洒な別荘、セカンドハウス(別荘というと思い浮かべる一軒家の他にも集合住宅タイプもあります)が立ち並び、大型スーパーもあるので生活物資の調達には困らないので腰を据えてハイキング三昧をするのもよいでしょう。

さて全盛期は80軒以上もあったサナトリウムは、一部はホテルに、一部はインターナショナルスクール、ボーディングスクールともいわれる世界各国からの超超超お金持ちの子弟が学ぶ寄宿学校の建物に使われています。Lisaの夫はドイツ出身のようですが、LAS(Leysin American School)の雇われ校長?責任者をやっており、Lisaもドイツ語のクラスを受け持ってます。

映画ではLeysinにあるボーディングスクールLASが実名で出てきます。私も知識としては知っていたけど、その想像以上のすごさがちょっとだけうかがえます。脚本も書いている監督のインタビューによると、スイスに幾つもあるこうした世界の超セレブの通う学校、英語だけを話し、観光旅行には出かけるけど学校内で彼らだけで固まって外部とはほとんど関わらないで生きる世界(日本人の子弟も大勢います)に衝撃を受けたそうです。LASは特に生徒と教師が家族のように過ごすことが知られており、こうして寮で生活を共にした世界のVIPがつながっていく・・・スイスにはそういう世界があるということで。

早くベルリンに帰りたいLisaに対し、任期延長を打診された夫。「以前のような二間の暮らしには戻りたくない」「君がベストセラーを書くわけでもなし」とどんどんド金持ちの世界に染まっていきます。何なら自分の子供を入学させようという夫に対し、「うちの子供をそんなVIPの環境に入れてどうするの?」とLisa。

主演するはずだった公演がキャンセルになり落ち込むSven。体調悪化。心身両面でSvenを何とか立ち直らせたいLisaがとった行動によりLisaの失われていた創作意欲は復活します。Lisaと夫、LisaとSven、母親、子供・・・全然ハッピーじゃない内容が続くのに、何故だか最後まで軽やかに観てしまって、鑑賞後翌日から数日頭にこびりついていた映画。監督二人が経験した肉親の病や老いが脚本の元になっているそうです。

映画の最初の方で、ベルリンからスイスへ戻ろうとするLisaは「スイスの何が恋しいんだ?澄んだ空気か?山か?ハイジか?」とからかわれます・・・はい、芸術活動の刺激にあふれたベルリンに比べるとLeysinは・・・日本からスイスで暮らすようになった方々の多くが直面するかもしれない、猥雑さを含む刺激や娯楽の少なさ(人それぞれです)、スイスの大都市でもそうなのだから山岳地のLeysinに至っては!

この映画、来年のアカデミー賞のスイスからの出品作に選ばれました。国際長編映画賞部門、以前は外国語映画賞だったのが2019年からこの名前に変わったのですね。各国からの推薦を受けて最終的に6作品に絞られるので最終候補になるかどうかは来年のお楽しみ。

Schwesterleinはほぼ全編ドイツ語で、私はスイスのフランス語圏で観たのでフランス語の字幕が入ります。例えばスイスでハリウッドなど英語での映画が上映される場合、ドイツ語とフランス語、それぞれ同時に2行に渡って字幕が入ります。この2行のうち1行を選択して読みながら映画を見るのってものすごいストレス!多分私だけじゃないらしく、英語映画の場合は吹替版も多いです。この映画は字幕が1行で楽だった。

ChuatとReymond両監督は共同で活動しているので彼らのサイトから:

My Little Sister – Official Trailer from Chuat-Reymond on Vimeo.

https://chuat-reymond.com/en/schwesterlein-3/

コメント

  1. 合い言葉は同じ誕生日♫ より:

    すっごく気になる映画! 早く日本語字幕つかないかなー

    • panorama-alpin より:

      おお、私の書いた文章が何らかの参考になれば(できれば公開へのちょっとした助けになれば)幸いです。先ほどブログ記事内の映画プロモーションフィルムをフランス語字幕版から英語字幕版に変更しました。よかったらこちらをご覧ください。

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