その日のうちにメディア上には後任の候補名がわさわさと挙げられましたが、名前が出た人の何人かは出馬する意思がないことを示し、一週間たった10月7日くらいからぽつぽつと閣僚候補に立候補する者が現れ、最終的には5人が参加表明。SVPの党方針であるスイスの中立、自主性の維持、EUへ参入しないこと、移民の規制、軍備の維持増強などの点について5人からヒアリングをし(同じ党内に属していても、これらの事項についての考え方には個人としての幅がある)、SVP内の選挙を経て11月18日には2人の候補に絞られました。
この候補者選びにおいてとても重要なのが「バランス」。スイスというのは小っっっっさい国土に公用語が4つ。ドイツ語を話す住民が概ね6割強、フランス語2割強、イタリア語1割弱にロマンシュ語がほんの少し(1%以下)とされています(複数の公用語を「母語」とする人、公用語以外の外国語が母語の人の割合もまた2割以上なので合計は10割以上になっている)。選挙で過半数をとる政党がなく上位4党で国政を担う閣僚7名を分け合うという、バランスが最重要視され、偏りは避けなければなりません。となると連邦参事会のメンバー選びも言語圏、出身地域、男女比が考慮されます。
ドイツ語とフランス語圏の言語境界線は国土の左側三分の一位のところにのびる縦のラインに近いですが、連邦参事会7名のうち、ドイツ語圏出身者、おおよそスイスの東側出身者が、あまりに多くなることは多言語のバランスをとるうえで避けなければならないのです(逆もしかり)。といっても7名しかいないし現在はイタリア語圏からが1名いるので残り6名、微妙なバランスをどうすんだ、ということになるのですが。今回は2名が同時に入れ替わるので、もう一名、別の党から選出されるはずの候補者との兼ね合いもあります。実際は任期が長い順、つまりSVPの候補から決まるので、SVPの候補の顔ぶれ(どの言語圏か、男か女かなどなど)によって、次の党の新任候補の選択にも影響が出ます。
党の公認候補は、以前は1名に絞っていたこともありましたが、この1名が議会の他の党の議員たちに嫌われてたりして拒否されると非常に面倒なことになるので(そういうこともあったそうな)現在は複数の候補を出すことになっているようです。
今回のSVPの候補は両名とも男、ベルン州とチューリッヒ州というドイツ語圏(Maurer氏もそう)なので次のSP/PS候補の選択にそれほどの影響はないかもしれませんが。
特定の言語、州に集中しないとの原則により、1999年までは同じ州から2名の連邦参事選出は禁止されていました。2名が違う党に属していたとしてもです。1999年よりその制限はなくなりましたが、出身州により涙をのむ候補者というのはやはりいます。閣僚になれるかどうかは本人の実力だけではなく、運や巡り合わせが左右する部分がとても大きいのです。
2人目の新任閣僚候補ですが、社会民主党(SP/PS)のSimonetta Sommaruga氏が11月2日に12月末での辞任を発表し、次の候補者選びが始まりました。(続く)
SVP/UDCのHP: https://www.udc.ch/
RTS(スイスのフランス語放送)のサイトから:
2名の新閣僚選挙について(まとめ)
https://www.rts.ch/info/dossiers/2022/double-succession-au-conseil-federal/