スイスの若者の就職事情(7)多言語の国で出世するには

前回にお話ししたau-pairは外国に行くこともありますが、スイス内で「国内留学」するのも一般的です。スイス内ではドイツ語圏からフランス語圏にフランス語を学びに来る方がその逆よりずっと多いです。ドイツ語圏スイス人はフランスの文化などに憧れを持っている(フランス語圏スイスすっ飛ばしてフランス!)そうですが、フランス語圏スイスではむしろ人々のドイツ語への憎悪を感じることもあります。ドイツ語が憎いというより、ドイツ語圏スイスの日常で話されているのが学校で習ったドイツ語とは相当違ったスイス(弁)ドイツ語であることからくる(聞き取りに非常に苦労する)、ドイツ語を習うことへの複雑な感情でしょう。ドイツ語圏スイス人は、相手がスイス弁ドイツ語を解さないとわかると即座に「標準」ドイツ語に切り替えてくれるはずですが、すぐ隣の人の話していることがわからないというのはストレスらしいです。フランス語圏スイス人でも流ちょうにドイツ語とスイス弁ドイツ語の両方を話す人も大勢いるので一概には言えませんが。

Collège de Démoretこれはもう使われてない学校の校舎(別用途になってるけど表示はそのまま)

スイスドイツ語の存在にもかかわらず、年配の人ほどフランス語/ドイツ語の両方に堪能です。「英語が大事」の流れはスイスでも例外ではなく、今ではフランス語圏とドイツ語圏のスイス人の若者同士が、共通言語として英語で会話することも増えてきているそうですし、ドイツ語圏のある州では外国語教育として学校でフランス語より先に英語を学ばせたい、との議論もあります。では将来的に英語が唯一の学習外国語となる可能性があるか、というとそれは無いと思います。まず、街中での英語の表示が大観光地を除いてとても少ないです。

Aubonneの城は今では行政庁舎のほかに小学校も入っている。小学校部分はここかしら?

また、郵便局や軍などの全国的な組織のトップや閣僚は、選出の際ドイツ語/フランス語両方の能力が重要視されます。フランス語圏の人だったらスイスドイツ語にも堪能だったら更に良いです。日本のNTTに当たるSwisscomという会社の以前のトップはドイツ人でしたが、フランスでも学んだことがあってフランス語に堪能でした。企業のトップになるなら英語能力は言わずもがな、でしょう。

Lutry Collège d’Escherinsの昔の校舎と思われる。学校近しの道路標示が残ってる

スポーツのナショナルチームのキャプテンは、独・仏・伊の三か国語ができたら完璧です。スポーツ選手は言語に通じている必要は無いはずですが、一流選手は年少のころから国内外を転戦して過ごしますし、インタビューに際し、それぞれの局の言葉で受け答えができれば視聴者への印象は格段にアップします。そして皆さん実にしっかりとしゃべる。

上の写真の建物の別ショット 外壁の時計

残りの公用語、イタリア語とロマンシュ語については敢えて言及してきませんでしたが、これらの言語「だけ」しかできないと将来的に仕事の幅が限定されるので、少なくともドイツ語の習得は必須です。

Collège de La Sallaz

スイスでは相当の割合の人たちが日常で使っていない言語の習得にそれなりの苦労をしているわけです。ふと自分の住んでいる町のことを考えると、外国人の比率は半分近く、スイスでも他の語圏から来ている人も多く、町の公用語を母語として生まれ育った人はどの程度の割合なのだろうか?もしかして少数派?その地で話される言葉を母語としない人がいるとの前提のためか、しゃべり倒して言い負かす傾向はスイスではお隣のイタリアなどに比べると少ないと思います。行政機関は難民を含む新住民に対し「早く言葉を覚えてください、早く地域に溶け込んでください。(そして早く働いて、自立して、生活保護から脱して、税金払って)」と強調しています。

Collège de Beaulieu。窓に貼ってあるのはTous pour le climat、みんなで地球温暖化に対し行動を!地球温暖化へのデモ行進、学生が参加してるのも含めて近頃多いです

家族の誰かがフランス人だとか孫がイタリアに住んでいるとか祖父母は○○語圏に健在などと、語学能力は環境によるとことが大きいです。大人になってから学んだ外国語につく発音のアクセントは仕方ないとして、語彙や言い回しは努力次第で増やせるし、一生かけて上達しなけりゃならないようです。すでにキャリアを積んだ中高年が夏休み4週間を使ってイギリスの英語学校に通うなんて話は時々聞きます。メディアで発言するような偉い人たちに対して無意識にスイス人が行う言語能力チェックは、自分も苦労してるんだから彼らだって、という思いからくるようにも思えます・・・多国籍企業や国際機関など英語だけで事足りる場合もありますが、スイスで働き続ける場合、言葉の問題はなかなかに厳しいです。

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