スイスにおける死と葬式と墓(8)普通の人でも新聞に死亡公告を出す

スイスでは、日本での朝日や読売のような「全国紙」がありません。ドイツ語、フランス語、イタリア語にほんの少しのロマンシュ語、話されている言語によって国が分断されていることもあるけれど、例えば同じフランス語圏内(300万人程度)でも州ごとにそれぞれの新聞(日刊紙)が発行されているし・・・同じ州内で複数の日刊紙があるところも。複数の州にまたがる日刊紙もあるけれど、発行部数は多くはないです。

その程度の発行部数だからこその地域密着。新聞に死亡公告を出すのもそれほどの出費ではないです。私が住んでいる町は隣の州にも割と近いので、カフェやレストランに行くとヴォー州の日刊紙「24heures」とヴァレー州発行の「 Nouvelliste」の2誌があることも多く、お悔み欄もそれぞれ特徴があっていつも感心しながら眺めている。生前複数の州にまたがって活動していた人は、それぞれの州の新聞に通知を出すことにもなる(出したければ)。

日本の新聞でも地方版に3~4行のお悔み通知が出るけれど、スイスで見られるお悔み公告はそんな程度ではない。例えば:

出だしに聖書や好きな作家の作品の一節、またはオリジナルの文章、例えば「お母さんの愛情は明るい日差しのようで、私たちの心を永遠に温め続けるでしょう」とか、そんな感じの。イザと言う日のために選んでおきたい。

遺族の名前、場合によってはフルネームと住んでる場所の列挙:

(彼女の)子供である 鈴木太郎と鈴木花子(東京都渋谷区)、佐藤次郎と佐藤(鈴木)梅子(千葉県市川市)、鈴木桜子(埼玉県川越市)

(彼女の)孫たち 鈴木大次郎(港区)、鈴木富士夫(渋谷区)、佐藤一郎(市川市)、佐藤桃子(市川市)

兄弟姉妹の~~~~、友人の~~~~

等は皆、鈴木○○子の死去に際し深く悲しんでおります。彼女は○○年○○月○○日に短い闘病の後、99歳で家族全員に見守られ安らかに旅立ちました。家族はお世話になった○○老人ホームと○○病院のスタッフ全員に深く感謝します。

葬儀は○○市の○○葬儀会館にて○○月○○日○○時から行われます(あるいは、葬儀は家族内にて既に済ませました)

なお、彼女は○○葬儀会館の建物に安置されています。会いに来てくださる方は○○月○○日の○時~○時、この間には家族がそばにいます。(あるいは、○○に安置されており、訪問は自由です、あるいはこうした故人との面会の機会が設けられてなく、何の情報も無いことも)

お花を贈ってくださることをお考えでしたら、替わりに「○○難病研究基金」への寄付をお願いします。口座番号は以下の通りです。備考欄に「鈴木○○子」と記してください。

と言った感じ。もっともこれは長い方、テンコ盛りの例でして、もっとシンプルにしても良し、書き方は自由です。生前の顔写真も載せられます。この辺りの雰囲気は新聞ごとに特色がありますね。

直近の死亡通知の他に、1年とか3年とか10年とかの節目に「貴方が去ってもう○○年!」などの広告も出ます。

また、亡くなった本人が生前所属していた仕事の組織や趣味のクラブ団体からのお悔み。亡くなった本人の子供などの勤務先や所属団体からのお悔みも載ります。亡くなった人の人物像を知る最後の機会です。

近年の紙媒体の日刊紙の経営状態は非常に厳しく、若者は滅多に定期購読していない、いや、読んでもいないかも。新聞のお悔み通知を熱心にチェックするのも年寄りばかり、となると紙媒体の新聞上での通知形態もそのうちなくなるのかなあ、とも思うけど、私、新聞の死亡欄を眺めるのがとても好きなのです。

義父が亡くなった時、新聞に広告を出したところ、半年くらい経って夫が地元で友達に会った際にお悔やみを言われたそうです。義母は毎日新聞をチェックして知り合いのお悔み情報を地元を離れた子供に伝えているので、新聞のお悔み欄はとっても大事。

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