スイスの政治(7)何がそんなに意外でバランスが悪いのか?

Elisabeth Baume-Schneider氏が選出された時、驚きとともに言われたのが「内閣構成員のバランスが崩れた」ことでした。何がそんなに問題なのかというと、

Baume-Schneider氏の住むJura州のLes Breuleuxの町(標高1038m)、歩きに行ってたことがありました。これは町の遠景(2018年10月)

まずは言語圏バランス。来年からの内閣構成員7人のうち、ドイツ語圏:フランス語圏:イタリア語圏から3:3:1人。ドイツ語圏住民がフランス語圏住民の2倍以上いるのに、内閣構成員はフランス語圏、それにイタリア語圏を含めるとラテン語圏が過半数で住民の人数と比例していない!私が聞いてるのはフランス語圏のテレビだけど、ドイツ語圏のメディアの落胆と批判はすごかったらしいです。

駅前のハイキング方向表示板 ここ、冬はスノーシューとかもできる

また閣僚7人全員が「小村(町)」に住んでいる状態になります。私のブログでは緑豊かな牛が人より多いような場所の写真を挙げることが多いし、対外的にはアルプスのイメージが強いスイスですが、実際には住民の4分の3は都市部に住んでいます。地方農村特有の問題もあるけれど、都市部にだって住宅、交通、騒音など人口過密に伴う問題が山積み。いくら閣僚たちが国全体のために尽くすと誓っても、7人のうち誰も都市部にいないのでは、都市部の悩みが分からないのでは?

馬に見とれてたら道を見失った思い出がよみがえる

農村、山岳地帯を守らなければならないのは確かだけど、お金を生み出しているのは主に都市部。スイスでは、9州から得られたお金が残り17州に補助金として配分されています。Herzog氏が有力視されていたのは、彼女が住むバーゼルの街には複数の製薬巨大メーカーがあり、またすぐ隣のフランス、ドイツと接する交通の要のバーゼルならば、ヨーロッパ経済との連携も期待できました。

2013年、SaignelegierからLes Breuleuxを通ってSt-Imierまで歩いたことがありました。Trans Suisse Trail(2番の道)。Les Breuleuxの駅舎

しかし農家に生まれ、今も農場を切り盛りしているBaume-Schneider氏が羊の世話をしている映像の方が、都市部に住まざるを得ない大部分のスイス住民(投票したのは議員達だが)の心をつかんじゃったことを、投票した議員や一般の人たちをも驚かせたのでした(注:Baume-Schneider氏は政治キャリアも十分あります)。

駅近くで、馬車!(2013年)

Herzog氏もBaume-Schneider氏もスイスの北西部なのでどちらが選ばれていたとしても変わらないけど、7人の閣僚の出身州が一人を除いて西側に大きく偏ることになります。辞任するMaurer氏は東部のZurich州で、来年からはスイス経済の最大の地Zurich州からの閣僚がいなくなり、これはかなり珍しい状況です。

Les Breuleuxから南下して山を越えてる途中。

Baume-Schneider氏は選出直後の演説で、「言語間の、農村と都市部の、世代間の、外国との懸け橋になりたい」と述べました。彼女はフランス語圏のJura州に住んでいますが、両親はドイツ語圏の出身で彼女は現在も家庭ではベルン州方言のドイツ語を話し、完全なバイリンガルです。問題なのは閣僚本人が話す言語ではなく、州の公式言語がどちらかなのかもしれません。

4月下旬だけど雪が残ってて、野生のクロッカスやシクラメンがきれいだった

さて、州の人口に比例して議員人数が決められているので、ドイツ語圏州の議員の方がフランス語圏の議員よりずっと多いはずです。それなのに何故にフランス語圏の候補が選ばれたのか?彼女の経歴・人柄という面ももちろんありますが、今回彼女が選ばれたことで、現在もう一人の社会民主党からの閣僚(男・フランス語圏Fribourg州)への辞任の圧力が強まり、また彼の後任には間違いなくドイツ語圏からの候補が選ばれることとなるでしょう。

1291mのMont-Soleil近くから。風力発電の風車が遠くに

と思っていたら12月14日、当のBerset氏(50歳)は再来年以降も続ける予定、やめる予定はない、と宣言してましたが。しかしいつか自分が、と思っていたに違いないフランス語圏の社会民主党所属政治家が今後閣僚になれる望みは50歳代以上だったらほとんどなくなりました。そのような深遠な策略と狙いからBaume-Schneider氏に投票したドイツ語圏出身議員も大勢いたでしょう。

山を下りると

他の国では閣僚や大臣というのは首相や大統領が任命するものですが、党に関わらず全ての議員の投票で決まるというのは面白いところです。その党以外の議員にも受け入れられるためには問題発言や過激思想の持主は避けられる傾向があります。日本だったら一度落選しても次の機会が、そして何期でもチャンスがありますが、スイスのシステムの場合、政党、州、性別、言語圏の色々が奇跡的にうまく合わさって初めてなれる。一旦誰かが閣僚になると10年前後は続けるので、タイミングが全てそろわないと能力がいくらあってもなれないのは問題といえばそうですが。

St-Imier(792m)はJura Bernois(ベルン州のJura)で時計産業の町でBaume-Schneider氏の生まれはこの町だそうです

12月7日のドキュメント(Swissinfo)

https://www.swissinfo.ch/fre/economie/la-double-%C3%A9lection-au-conseil-f%C3%A9d%C3%A9ral-en-direct/48114614

バランスが崩れたよ~という記事:

https://www.rts.ch/info/suisse/13609510-damien-cottier-on-a-pousse-le-curseur-assez-loin-au-conseil-federal.html

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