スイスで2015年に制作された実写映画「Heidi」が「ハイジ アルプスの物語」として8月下旬から日本で公開されるそうです。
スイスドイツ語の予告編をどうぞ。
実写でびっくりしたのはひと昔前の話とは言え、村の通りが未開の地のようだったこと。
ぐちゃぐちゃにぬかるんでいて、鶏は放し飼いだし、動物さばくのだってすぐそこでだし。
大都会のフランクフルトだって街の中心はなかなか猥雑な感じ。
藁のベッドもお日様の光に照らされてものすごい量のホコリが舞っているのが分かる。咳込みそうだ。
そしておじいさんは、外仕事で体が鍛えられているとはいえ、ハイジやクララを背負って足元不如意の斜面を登るのだ。
その後、日本のアニメ版「アルプスの少女ハイジ」を観たらスイス人が「すごい、マイエンフェルドそのままだ!ものすごく良くできている!」と感動していました。そりゃあ高畑・宮崎のアニメですもの。
あのアニメは本当に素晴らしいです。ただ、実写版に比べると村もどこもかしこも小綺麗すぎる感はありました。実際のスイスの村は僅かな平地に家が密集していて道幅は狭いし、斜面にへばりつくように形成されているので傾斜は急だし。村外の道に至っては石ゴロゴロでさぞ歩きにくかったろうと思います。おじいさんの小屋の周りだって、アニメだとビロードのような緑で裸足で駆け回りたくなりますが、実際はヤギを放牧するしかなかったようなボコボコの斜面だったんだろうなあ(といえどもハイジとピーターは楽しく駆け回り、寝っ転がっています)、という現実が実写版では、はっきり描かれています。
スイスはもちろん、フランクフルトでさえも大多数の人の生活は食うや食わずの苦しいものでした。だからこそのデーテおばさんの行動。
そしてロッテンマイヤーさん!クララの家がいかに恵まれていたかを知ると、お嬢様と同等の教育を受けられ、未来への道が開けるというのに何だって嫌がるんだ、この山猿は?
「アルプスの少女ハイジ」の字幕でロッテンマイヤーさんに対し「Fräulein」と敬称がついていて一緒に見ていたドイツ語圏スイス人が「おぉー」と反応しました。ドイツ語で「婦人」はFrau。Fräuleinは未婚の女性に対する敬称ですが、現在は滅多に使わない模様です。フランス語のMademoiselleも今ではよっぽど小さい女の子にしか使わないようです。高校生くらいからは確実にMadameと呼びかけるようです。
30年前くらいまではMademoiselleって使っていた(私も呼ばれた)ような気がするのに何で?と尋ねたところ、女性にのみ存在した未婚か既婚で異なる敬称、昔は「結婚している女性ー男性と関係を持っている女性ー口説いてはいけない対象」がそれなりに対応していたのですが、フランスにしてもドイツにしても現在では子供がいてもカップルは必ずしも結婚しないし、結婚してても恋愛は自由のようだし、この現状では未婚か既婚かを区別する(しかも女性のみ)言葉は意味を持たなくなりました。あぁ 時代によって言葉は変わる。Fräulein Rottenmeier、彼女はもしかしたら未婚のままクララお嬢様のために一生を捧げるのではないでしょうか。私が手塩にかけてお育て申し上げたクララお嬢様が毒されていく・・・山猿(アーデルハイド)憎し!とすっかりロッテンマイヤーさんに感情移入している私でありました。
追記:ドイツ語で”lein”は”小さい”の意味で、Fräuleinは小さいFrau、つまり一人前ではない婦人のニュアンスがあったそうです。結婚して初めて女は一人前であり、未婚なら80歳でもFräulein。確かにこの考え方は現在では受け入れられないですわな。
では中高生くらいの女性に対して何と呼びかければよいか?という話になり、その場合はフランス語だったらvous,ドイツ語だったらSieでいいのではないか(いずれも英語のyouの丁寧な敬称)ということでした。
もっと見たい方はこちらを。