スイスの税金の話(3)引っ越しても住所を税金が安い州に残す

昨年2022年、ドイツ語圏スイスのZugの出身、フランス語圏のVaud州には大学の博士課程のために来て、しかも学生生活を終えて間もない30歳という異例の若さ、つまり政治の実務経験はほぼ無し、地盤もほとんどないはずの「よそ者」女性が選挙で当選。この際性別はどうでもいいのだが、彼女の所属政党は年配の男性が牛耳ってることもあり、彼女の当選は大サプライズ、その後のあちこちのメディアに出まくっていた。

ところが3月初旬にすっぱ抜かれた報道によると、彼女は大学があるVaud州に進学後(何らかの住居がある)もZug州に住所を残したままだった。2021年に立候補した際には一時Vaud州に住所変更したが落選後に再びZug州に戻し、そのまま2022年に今度は当選。当選後はよりによって財務を担当しているが、現在までVaud州には1フランも税金を払っていないことになる!

3月23日追記>3月23日の報道によると彼女は選挙に立候補するに先立ち2022年の初めに住民登録をZugからVaud州に移動。よって「被選挙権」についてはクリアしてます。ちなみに12月31日に住民登録している州に確定申告をするので、2023年3月初めの時点では彼女はまだVaud州に税金は払ってないことになります。2022年の分からVaudに払います(2024年1月から払い始める)。法的には問題はないけど節税のために州を選んでた感は否めませんね。

<選挙票は住民登録した住所に送られるので、住民登録した州や自治体の選挙にしか投票できないのは日本と同じだが、住民登録している州や自治体以外の「被選挙権」はあるんだ、とびっくり。スイスに住む人も、被選挙権については特に意識していないみたいですね。>

「叩けば埃が出る」のごとく、その後も彼女には不都合な事実がボロボロと出てきたのですが、一番の懸案:「Vaud州に一銭も税金を払っていない政治家に自分たちの血税の使い道、財務について指図されたくない。何でこやつの給料を俺らの血税から出すのか?」というVaud州民の感情でしょう。しかし、引っ越しても住所変更をしない人は結構いて、住所登録がない州から立候補できるんだ、という驚きはあれど、彼女の行動は法的には問題がないそうです。

何が人々のむかつきを煽ったかというと、スイスでは3月の確定申告により日本で言うと所得税、住民税、財産税を合わせた税金が算出されますが、その税率が州によって相当変わるからです。Zug州は税金が安く、Vaud州は高いことが特に知られています。彼女は議員になる直前まで収入がそれほどない学生であり、節税額はそれほど多くはなかった、とも言えるけど、もし税金の安いZug州じゃなく、もっと高い州だったら多分率先して住民登録を移してたのでは?

節税目的で住む州を選んだり、引っ越しても実家が残ってるなどして郵便物が受け取れる状態なら住所を変えない人はそれ相当の割合います。学生はもちろん、成人した社会人でも日本よりはずっと頻繁に実家に帰る人が多い印象があります。

何といっても九州と同程度の面積に26もの州があるのです。公共交通機関も発達しているし、高速道路は年間100フランちょっと払えば走り放題。大した移動距離じゃないです。住居と勤務地が別の州なんてのはザラだし、毎日とんでもない人数が隣の国から通勤・通学してくるし。

別荘やセカンドハウス保有率が高い一方、都市部の住宅難は深刻で、シェアハウスの割合も多いのも事実です。若者にとっては進学や職業訓練や就職で州外に出ても、合わなかったら無理に何年も我慢して卒業するよりは、とっとと次の道を選びなおす事が推奨されています。将来はかなり流動的なのは事実で、親元を離れてもすぐに住所変更をしない人が多いのはうなずけます。

さて何十年も住所を変えないままの人でも、時折摘発されて住所変更させられる話も聞きます。しかし上記の理由もあり、学生時代はほぼスルーされるらしいです。なぜなら収入が少ないかほぼ無い学生というのは在住の州にとってそれほどの利益はないからです。住民登録されてることで、学生に対し何らかの経済的な補助をしなければならないかもしれません。

納める税金には日本のような所得税と住民税の区別はありませんが、税金額から連邦、州、自治体へ配分されます(そして税収の少ない州は連邦から税金の再配分を受ける)。住所登録と現実に生活している場所にずれがある場合、日本ならまず心配になるのは子供の学校への登録ですが、スイスの場合、無戸籍自動だろうが違法滞在者の子供だろうが学校に通わせるのは「義務」だという考え方があるそうです。以前は、特にイタリアから大勢の移民が働きに来ていて、でも最初のころは労働力本人しか滞在許可が出なかったので、内緒で連れてこられた子供は学校にも行けずに昼間家の中でおとなしくしていた、ということもありました。

現在は、とにかく子供は、特にスイスのバックグラウンドを持たない子供には学校教育を受けさせて、スイスで話される言語での読み書きそろばん能力をつけさせること、スイスの「一般常識」「社会的な考え方」を叩きこんでおくほうが後々の諸問題の解決に役に立つ、との考え方です。話が最後にそれましたが、それを言いたかった。

スイスにあった、銀行口座情報の守秘義務は2018年に終了しています:Swissinfoの記事(日本語)

(英語):https://www.swissinfo.ch/eng/tax-evasion_switzerland-to-share-banking-information-from-2018/41087378

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