スイスで話されているドイツ語(3)方言が廃れない理由

なぜスイス(弁)ドイツ語は廃れないのか、と不思議に思った方も多いでしょう。

日本では方言は地方や田舎で、都会に出たら標準語/東京弁?というイメージがあるかもしれません。ところがスイスでは、そして多分ドイツ語圏の多くの国や地域では、標準ドイツ語と都市部や近代化度合いとは関係がないのです。例えばスイスの山岳地から、スイスにしては都会のチューリッヒ(日本からしたら田舎かも)に出ても、チューリッヒで話されているのもスイスドイツ語のチューリッヒバージョン。スタイリッシュな住居に住む超高収入銀行マンでも友人同士で話すのはスイスドイツ語。そもそも一極集中でもないし、チューリッヒ大学や連邦工科大学に進むことが全ての人の憧れの先ではないし、いやまてスイスの首都はベルンだけど、ここは本当に日本からしたら完全なる田舎だわ。

スイスドイツ語といっても各地で細々とそれぞれの癖があり、彼らは一瞬で相手の出身地を推測します。変化しててもスイスドイツ語話者同士は州が違っても意思疎通ができます(流石にね)。例外としてObergoms、Wallis州の東半分で話されるスイスドイツ語はクセが強くてわかりにくいらしいけど。ちなみに超大雑把な傾向、否定を意味するNein(英語のNo)はベルンなどの西側ではイ、チューリッヒがある東側ではナーイと発音する傾向にあるかも。二都市の距離、たいしたことないんですけどね。

そんなわけで、田舎から都会へ、就職や進学などで出てきても、出た先でもやはりスイスドイツ語になります。故郷の方言から例えばチューリッヒ方言に近いものを話すようになるということはあります。でも都会だから標準ドイツ語になるということはないのです(外国人相手に標準ドイツ語を話す機会が増えるということはあるかもしれません)。これは恐らくドイツを含むドイツ語圏のドイツ語話者皆さんに当てはまるのではないかしら。

絶対だったラジオやテレビでの標準ドイツ語の使用が緩くなっている件について、昔はラジオやテレビが、人によっては標準ドイツ語に触れる数少ない機会だったわけですが、今は簡単にドイツへ遊びに行けるし、標準ドイツ語に触れる機会はいくらでもあるからかもしれません。スイスで学校教育を受けると標準ドイツ語とスイスドイツ語のバイリンガルと書きましたが、小学校から始めても、訛りの強弱は人それぞれです。

去年の大統領の新年の挨拶は当然の標準ドイツ語、しかしパンデミック状況がどんどん深刻化していくにつれ、国民への語り掛けがどんどんスイス弁になっていった、というフランス語圏の新聞での記事を読みました(事実の度合いは未確認)。

先日はテレビのスポーツ中継で実況と解説の2人がそれぞれ標準ドイツ語とスイスドイツ語で話していました。標準ドイツ語を話していたのがプロのアナウンサーでスイス弁がそのスポーツの専門家かしら。スイスドイツ語を解する者同士なら、それでも会話に支障はないのです。

普段はスイスドイツ語で話していても、相手が標準ドイツ語しかできないとわかると、そちらに切り替えます。2020年に公開されたテレビドラマ大作「Frieden」では主人公の一人が第二次世界大戦直後、傾きかけた家業の繊維工場を立て直そうとドイツ人技術者を招き歓迎パーティーを開きます。そしてSchweizerdeutschとHochdeutsch、どちらで話しているかで相手が逃亡ナチ兵かもしれないドイツ人なのかスイス人なのかがわかるのですが、これがフランス語吹き替えや字幕になると理解度がイマイチになってしまう・・

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