Schweizerdeutsch(スイスドイツ語、Schweizは「スイス」のこと)に対するHochdeutsch(標準ドイツ語)とは?
現在のドイツ、オーストリア、スイス、イタリアのチロル地方、フランスのアルザス地方、ルクセンブルクなどなどで話されているドイツ語。フランス語のように遠くアフリカやカナダのケベックなど遠隔地に散らばることなく、かたまってはいるものの、それなりに範囲に広がっています。そして植民地時代に持ち込まれたフランス語と異なり、ドイツ語といってもずーっと長い期間をかけ、それぞれの場所でじわじわと変化していったので、それぞれの地でそれぞれのドイツ語方言が話されています(国境と一致しているわけでもない)。
またドイツはフランスのような中央集権国家ではないこともあってか、ドイツ国内でもバリエーション。以前NHKのドイツ語講座(保坂良子先生)でドイツでは学校で「標準」ドイツ語を教えることはないと言っていたけどそうなのか?
16世紀、ルターはそれまでラテン語限定だった聖書(坊さんのみが解読可能)を初めてドイツ語に、自分が育ったザクセン州の方言で訳しました。この一般人でも読めるドイツ語の聖書はドイツ語圏に広まり、書き言葉ドイツ語・Schriftdeutsch/Hochdeutsch「標準ドイツ語」となりました。標準ドイツ語の意味に用いられるHochdeutschのHochは「高い」ですが、この高さは「高貴」の意味とする説と(だって聖書)、「高地」とする説があります。。フランス語で方言ドイツ語に対し標準ドイツ語を表す場合、Hochからhaut(高)allemand(ドイツ語)、 bon (良い)allemandなどと言います。
一方の発音の標準は19世紀末の舞台ドイツ語Buhnendeutsch、ハノーヴァー地方の発音が近いそうです。日本でもドイツ語を学ぶ際に、ドイツ語のこの綴りではこの発音になる、と習いますよね。
スイスでは公の場ではHochdeutschで話すことになってます。公の場とは、学校、教会、ラジオ、テレビのニュースや政治家の記者会見など。小学校に上がると、それまで家庭で話されていたスイス弁ドイツ語ではなく「ちゃんとしたドイツ語」で話すように注意されて訓練されてきたそうです。日本の明治時代の方言廃止運動に似ているのかしら(時期も同じくらいだと思う)。
ただし、昔に比べると現在は「スイス弁ドイツ語でもいいじゃないか」傾向がどんどん強くなっています。テレビやラジオでも普通にスイス弁が飛び交ってます。スイス弁ドイツ語はスイスだけでしか通用しないから、標準ドイツ語が使えなければ将来の仕事に差し支えがあったのは昔の話。現在のスイスの経済力を考えると、むしろドイツ人がスイスに働きに来ているし英語もあるし。
それでもやはり「公の場」は標準ドイツ語なのでスイスで学校教育を受けると標準ドイツ語とスイスドイツ語のバイリンガルになります。さらに、近頃の教育現場ではそれほど熱心に教えない州もあるとはいえ、フランス語と英語(こちらはどんどん重要に)も加わります。もっとも学校卒業後、ずっと地元で地元民相手の仕事で50年、となると標準ドイツ語を話すのが下手になった、というようなことは十分にありえます。