スイスでワインを飲む・買う (3)現地でしか飲めない

Salgeschの集落(2016)

ほぼ現場でしか飲めないもの、それはワインになる前の熟成してない新酒です。秋にブドウを収穫してから二か月以内、場所にもよりますが10月後半から11月初めの限られた期間しか存在しないお酒です。発酵途中のものは運搬がしにくいので遠くには運べないのです。

これ発酵の度合いなどに応じて実に様々な呼び名がありました。定義はあるものの、国や地方によって呼び名が様々で、悩ましいのは同じ名前を地域によって違う使い方をしているケース・・・散々調べた結果、色々な呼び名がある、違うということに気づいていない人だって大勢いる、のがわかりました。今回の記事と実際が違った、という場合には、現状が優先されます!始めは間違いから生じた言葉の使い方も、定着したらそれが正解。

まず、フランス語でmout(uの上に「へ」のような笠が付く)、これは新鮮なブドウの搾り汁で皮や種を含んでいます。発酵はまだしていないので瓶詰状態で店頭に並ぶこともあります。

SierreとLeukの間、フランス語からドイツ語圏へと変わる。使われる言語は時代によって変遷したが、現在はこの川(見えてるのは谷)がおおよその境界線のようだ。

このmoutが少し発酵して vin bourru(仏)となります。ブドウは糖が発酵してアルコールになるのですが、vin bourruでは第一発酵が始まったばかりなのでアルコール度は3~4%と低く、その分甘いです。濁りと発泡がみられ、わずかな期間しか味わえません。ドイツ語ではFederweißer、フランスのボージョレ地方ではparadis(天国の意!)アルザス地方ではNeuer Susser、オーストリアではSturm、そしてスイスのドイツ語ではSauserというのだそうです。

発酵がさらに進んだものはワインの新酒となりますが、vin nouveau, vin primeur, vin jeune、、、「発酵が始まって時間が経っていないワイン」なのか「収穫したその年のワイン」なのかとにかく「若いワイン」なのか、現場の解釈はそれぞれのようです。

Leukの町 (2013年11月)

私は2016年の10月30日にヴァレー州のLeukのカフェでvin bourruを飲みました。店内にあった張り紙には「nuwa wii」の記述もありました。この地方はOberwallis (Haut-Valais)というドイツ語圏のスイスで、ドイツ語圏のスイスでは州ごとに特徴のある方言を話しています。標準ドイツ語の「新酒」はnewer Wein (英語の new wine) ですが、方言の発音のまま、辞書に載ってない言葉が書かれることもあるのですね。晩秋にブドウ産地を訪れることがあったら、「新酒(未満)」があるかどうか聞いてみてください。ちなみに標準ドイツ語の「~はありますか? haben Sie~?」はスイスドイツ語では「hansi?」となるそうです。

Leukの町中心にあるハイキングの標示板

ワインと食事の組み合わせ、肉には赤で、魚には白、と一般にはされてきましたが近年は従来の食卓に分類されないエスニック料理や目新しい食材の台頭の影響もあってか、あまり気にしなくても良い、ともされています。それでも未だに守られているのがチーズフォンデュと白ワインの組み合わせのようです(マリアージュって言うのか?)。

スイスでワインが作られていることを知らない人も多いでしょうし、実際スイスでもフランスやイタリアなど他国のワインを飲むことは多いです。値段の面ではとても対抗できません。

スイスでは古くはローマ帝国時代からワインづくりは行われてきました。それ以来、その土地にあったブドウの品種が植えられ、その地に住む人々の嗜好によって改良されてきたわけです。近頃読んだワインの啓蒙広告冊子(COOPは私をアル中にしようとしている)に、従来の組み合わせにこだわる必要はないけれど、その土地固有の料理とワインで合わないわけがない、とあり、深くうなずいたのでありました。スイスは決してグルメを目的に来るところではないと思いますが、機会があったらその土地のお酒をどうぞ!

前回の記事中、ワインの試飲の折に出てくる(かもしれない)おつまみflute。パイ生地をねじってオーブンで焼いたもの。塩味、チーズ味、オリーブ練りこんだもの等。

※ ヴァレー(Valais)地方のブドウ畑は2017年4月の遅霜でかなりの被害を受けました。半分以上駄目になったところもあるようです。今現在の葉の茂り具合がどうなのか、景観にどのような影響があるのか、私は春以来歩いていないので何とも言えませんが、お伝えしておきます。ちなみにヴァレー州は相当大きいので一概には言えません。

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