スイスの温泉(8)Vals 建築家たちの競演という名のハコモノ

ずーっと昔、意外にもスイスにはそこらに温泉が湧いていて、浴槽が一つか二つあるだけの、質素なまさに「湯治場」で怪我や病気後の人々が静かに過ごしていたそうです。80年前、スイス人の知人の祖母はエメンタール地方にある湯治場で長逗留する間に懇意になった夫人のもとに自分の娘(知人の母になる十代)を奉公に送ることに決め、彼女は奉公先で将来の結婚相手に出会いました。(スイスでは温泉療養できるようなお金に余裕がある家でも昔から子供を高等教育に進ませるのではなく職業訓練に向かわせる傾向がある)そのひなびた温泉がなかったら知人は生まれることもなかったわけですが、その温泉は今では廃業、レストランだけが残ってるそうです。

あの赤い列車(Chur駅、2013年)

そんな例がスイスには沢山沢山あるようです。ひなびた温泉に大きなハコモノを作って一山当てようという地元の思惑。でもLeukerbadもそうですが、スイスでの温泉ビジネスというのはリスクを伴う、必ずしも成功しないもののようです。派手な泡風呂、多種多様な浴槽やサウナがないと物足りなく思う客もいるし、シンプルなのを好む客もいるし。

Vとある辺りがVals。

高級路線でもう一軒。Peter Zumthorが設計したので有名なグラウビュンデン州のValsの温泉施設。ここですよ、入館料が80フランするのは。

Valsは山の中。遠いイメージがあったけど、Zürich(チューリッヒ)からChur(上の地図の右端)まで鉄道で70分ちょっと。Churから35分でIlanz。IlanzからはバスでVals, Thermeまで35分。Zürichから最短2時間半で着きます。

Ilanz駅前。ずらっと並んだバス。ここから各地に。この中にVals行きもあったんだな。

グラウビュンデン州の州都Churからはグラウビュンデンの各地へ鉄道・バス共に多数の路線が発着していますが、Ilanzまでは、BrigからAndermattを経由してChurまで行くあの列車で途中下車するのもいいですね。

赤枠の停留所がVals, Therme。その先にValsの町の中心。その先にロープウェーがあるってことは冬はスキーだな。

Valsの標高は1252m。町中心の東にTherme、西にロープウェーがあるのでスキーができるところですね。Valsには温泉に関する記述が存在する数百年来、幾度も温泉施設がつくられてきました。1960年からあった建物にかえてスイスの大物建築家Peter Zumthor設計の新しい建築Therme Valsが完成したのが1996年。

Valsには行ったことがないのでグラウビュンデン州の州都Churの写真を。グラウビュンデン州立銀行

2017年のNHKの「まいにちドイツ語」のシリーズ「ドイツ語で巡る建築」でも取り上げられていて、それによると「特に印象的なのは建築素材。建物全体がこの地方で昔から建材として使われてきたブルーグレーの片麻岩のプレートで出来ており、設計者はこの建築を景観の中に組み込もうとした」とあります。

Churにある教会にはAugusto Giacomettiのステンドグラスがあります

しかし、予算超過などから自治体で営業を続けるのは無理(巨額の予算がかかったことなどがWikipediaのドイツ語版に書かれている)となり、町は2012年に自治体所有だった建物を不動産投資家に売却、「7132 Thermal Baths」と改名される。

2016年にアメリカ人建築家Thom Mayneが施設のエントランスを改築、隣接するホテルの改築には隈研吾、安藤忠雄両氏も関与。とビックネームそろい踏みですな。観光収入に頼る町、温泉という天から与えられたもの、というか地から湧き出たものに利権が群がって、でもハコモノの設計を大物に任せたらとんでもない予算になってしまって大変!ってどこでもあるんですね。

夜のChur駅(2013年)

所有者が変わった影響で温泉施設の利用がホテルの宿泊客にのみに限られていた時期もあったそうですが、今は再び日帰り利用客にも開放しています。しかし、基本宿泊客優先のようなので事前予約が確実のよう。

これはWalserwegとは関係なく、85番の道(Chur~Andermatt間)を歩いた時の写真

Valsは16世紀にWallis州からWalserが移住してきた影響がみられる町。私の憧れのWalserwegの経由地でもあります。

7132のサイト:

https://7132.com/de/therme/die-therme/%C3%BCbersicht

入館料ですが、ここのサイトで値段が書いてある所を見つけるのが分かりにくいです。下のリンクから希望の日にちを選んでオンライン予約&購入するか現地での窓口購入ですね。

https://shop.7132.com/courses/category/

サイトによると繁忙期はともかく、通常期(2022年5月)は平日週末ともに一日券のみの設定で80フランかな。Valsに宿泊するともらえるゲストカード提示で50フラン。

Valsの観光公式サイト:

https://vals.ch/

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