1970年の春、Valais州のとある町(Monchouxという一応架空の町)を舞台にしています。撮影されたのはSaillonという現存する町。今でも中世の街並みが残っていて、周りはずーっとブドウ畑。
一人は保守的なワイン醸造主であり伝統ある町のブラスバンドを指揮する男Alois。もう一人はパリ帰り、1968年の5月革命を経験して故郷に帰ってきたリベラルな「ミュージシャン」Pierre。古臭くて崩壊気味の老舗ファンファーレ(ブラスバンド)に対して、新たなブラス団体を結成します。外国人や女性やもしかしたら「社会主義者」も加わってるクラブを。彼らが町中を行進しながら演奏するのはBella, ciao。前回の映画Die Schweizermacherでも最後のほうに歌われていたイタリアの抵抗左派のシンボル的なメロディ。挑発してます。
1970年の春は後述する外国人労働者を制限しようとする法案が国民投票にかけられる前夜。Aloisは外国人嫌いでありながらブドウ畑での働き手としてイタリアからの男たち大勢を雇っていて、彼らは二段ベットが並んだ狭い部屋で寝泊まりしてます。Aloisはまったくもって嫌な奴で、ワインに興味を示している一人娘や妻に対し「女は引っ込んでろ」。国に返すぞ、と雇っているイタリア青年を脅すし、団員にも優しくないし。
翌年1971年3月の国民投票で、ようやくようやくスイスでの女性参政権が認められるのですが、その活動も町内で見られます。政治的に二重に忙しい時期!しかしそんなことより男二人と2つのブラスバンドを巡って町内が二分。町内の保守・リベラルの二派の違いでもあり・・・コメディです。
映画の舞台となったValais州ではこの当時女性の発言権が限られていました(50年後にはValaisから女性閣僚が出て現軍事大臣にまでなるんですが)。公開が2019年6月12日。その2日後の14日はあの盛り上がった「女性ストライキの日」でした。
一昔前のスイスでは、ブラスバンドや合唱団が住民の誇りというか団結の場としてありました。ブラスバンドは大会目指して腕を磨き、若者はそうした活動を通して年長者から学び、通過儀礼的な役割もあったそうです。
「Tambour(太鼓) battant(鳴ってる)」とは?その昔、太鼓隊は戦闘の場で、「突撃!」の合図を鳴らす役目がありました。Tambour battantは成句として強い意志でエネルギッシュに行動を起こす、の意味があります。
去年末に連載したように、戦後のイタリアからの移民の急増があり、1970年のスイスにおける外国人人口は16.2%。スイスの全人口が600万人のところ、100万人が外国人。映画にちらりと出てくるSchwarzenbach(人名)法ではジュネーブを除く州ごと外国人を10%以内に抑える(超過した分は追い返す)ことを発案してます。外国人が多すぎるとスイスの国民性の危機だと。
それ以前の1965年にも、それ以降も数々の移民制限法が国民投票にかけられます。Schwarzenbach法案は1970年6月に投票にかけられ、74%という非常に高い投票率のなか、54%の反対で棄却されます。
Tambour battant(予告編)François-Christophe Marzal監督。
Tambour battantの映画についてラジオRTSで数々の番組で番宣や解説やってましたがそのまとめ(フランス語):
https://www.rts.ch/fiction/10445906-tambour-battant-un-film-de-francoischristophe-marzal.html