ベルンからチューリッヒへの列車に乗り、Oltenを過ぎるとやがてモクモクと蒸気が出ている三角フラスコのような建物が視界に入ってきます。Aarau州はGösgen(ゲスゲン)に1979年に設立された原子力発電所です。2016年のスイスは発電量のうち56%が水力、40%弱が原子力、残り数%が太陽光発電などを含むその他によっています。
スイスは化石燃料に恵まれなかったことから火力など化石燃料での発電の割合が非常に低く(蒸気機関車も早くに姿を消した)1970年代までは水力が90%を占めていました。それ以降の増大する電力需要量を原発がまかなったことになります。
スイスにある原子力発電所は4か所、5基です。Beznau(ベツナウ)には2基、1969年と1971年の建設で、古い方は世界で最も古い原発です・・・他にはMühleberg(ミューレベルク1972年)とLeibstadt(ライプシュタット1984年)があります。Gösgenに限らず、スイスにある原発は人口密集地(と言って差し支えないと思う)に建てられています。そもそも半分以上が山々の小さな国土の中で、原発を建設できる川などの水辺のそば、といったら人が住んでいるところとかぶります。
ちなみにMühleberg原子力発電所は首都ベルンからわずか15㎞にあります。15㎞?!東京駅から川崎までが20㎞ですよ。Mühleberg発電所周辺を眺めていたら、なんと、発電所の際をハイキング道が通ってるではないか!
他の3か所もすべてそうでした。Leibstadtはドイツ国境に当たるライン川のほとりですが、ライン川に沿って歩くロングトレイル、ViaRahenaがすぐ横を通ってます。ダムを眺めながら歩いたり、わざわざダムを見学しに行くのだから原子力発電所のそばを歩いたっていいわけだ・・・
さて私は関東地方に長く住んでいましたが、原子力に関わらず発電所を見た記憶がほとんどありません。電力の大部分は都会に送られるのに、日本にいると、電力の恩恵を受けている都市住民には発電の現場に接することはほとんど無いのですよね。
スイスでは水力発電と言っても大型ダムの他に河川を利用する「ちょっとした」発電施設が、300kwh以上の発電能力を有する施設に限っても600か所あるそうです。そんなわけでハイキング途中、川や湖沿いで発電施設(と説明パネル)に遭遇することがしょっちゅうあります。だからと言ってスイス人がとても節電に気を遣っているようには見えませんがね。冬場の室内の暖房を低めにして、半纏やどてらを着てればいいじゃん!と良く思います。
現在は6割近くの電力を供給するスイスの水力発電ですが、近年は外国産の電力(安価な石炭火力や政府の補助金を受けたドイツの再生可能エネルギー)に押されて電力価格が暴落し、厳しい経営を迫られています。赤字です!株式の49%を中国企業に売却した水力発電の企業もあるらしい。
スイスの誇る資源は水資源だといっても水力発電は環境を破壊する存在でもあるので、原子力発電が推し進められてきたのですが、2011年3月以降は方針がガラッと変わりました。2011年5月には新規の原発建設の停止を政府が決め、連邦議会の承認を得ました。2017年5月には「2050年までに原子力から撤退、エネルギー削減、再生可能エネルギーの利用の促進」を求める国民投票が58.2%の賛成で可決されました。その前年の2016年の「2035年までの脱原発」提案は否決されましたがね。
Mühleberg原子力発電所は2019年12月に廃炉となります。でも現在40%のシェアを占める原子力発電無しでどう乗り切るのか?
方法の一つは使用するエネルギーの削減です。スイスでの電力需要は冬場の暖房がピークです。暖房効率を極限まで高めるなどした超省エネ建物といったらMinergieなどでしょうか(暑すぎるという問題もあるらしい)。日本の場合は夏の冷房効率をどう高めるかが課題でしょう。都市部の緑を劇的に増やし、そもそも都市部への人口の集中を避ける、それが出来たらなあ…
エネルギー政策の二つ目は再生可能エネルギーの促進。次回は風力発電と太陽光発電の現場を歩きます。
地図は https://map.wanderland.ch/
からの引用です。地図上の緑の線は道標が整備されている公式ハイキング道です。
5番の道、Chemin des Crêtes du Jura(Jura Höhenweg)はこちら
https://www.schweizmobil.ch/en/hiking-in-switzerland/route-05.html