2018年の夏はスイスでも暑かった ー というよりほとんど雨が降らない状態が晩秋まで続き、とにかく乾燥していました。
その結果、果物が記録的な豊作!ワイン用のブドウはもちろん、リンゴに梨!!!
庭付きの家ならリンゴなどの果樹があることは実に多いです。基本、今年ほどではないにしても日本に比べると圧倒的に夏季の湿度が低いので病害虫の心配が少なく、薬剤散布もせずに枝を剪定する程度で適当に放っておくと実が成るらしいです。袋掛けもほぼ見たことがないです。
今年に限っては、剪定や摘果を怠った木では恐ろしいほどの数の実がなってしまって枝への負担が大きすぎる、と秋近くになってから慌てて実を摘んだ、との話も聞きました。
そんな適当に育ったリンゴやナシたちなので実は小さかったり、日本の素晴らしい果物に比べるとほどほどの味だったりしますが(日本の果物を知らなければ十分旨い)自宅の庭で収穫したり散歩途中で「拾った」リンゴを使って、家庭でもよく作られるのがリンゴのタルト。店で売ってるのもこんな感じです。スイスのケーキはスポンジ&クリームよりも素朴系のタルトが断然美味しい、と個人的に思います。
さて、冒頭の写真はTarte à la raisinée、 Vin cuitのタルトです。Vin cuit(ヴァンキュイ)はFribourg(フリブール)州、同じものがVaud(ヴォー)州ではraisinée (レジネ raisiné, résinéとも表記)、他にも cugnarde, coignarde, Biresaasaとも呼ばれるのはリンゴやナシの果汁を煮詰めたものです。Vin cuitとはcuit(煮た)vin(ぶどう酒)の意味ですが、ワインは入ってない!使われるリンゴやナシは熟しすぎたものはピューレ状になってしまうそうですが、ちょうどいい熟し加減の果実からは砕いて濾すと透明な果汁が得られます。これを銅製の大鍋(容量は100~1800リットルとか)でひたすら煮詰めます。燃料はかまどで燃すには適さないような古い木材を有効活用します。ハイジのおじいさんが大鍋でチーズを作ってるイメージですね。
茶褐色の水飴状になるまで煮詰める作業、最初の1/10量になるまで水分を飛ばすには火にかけること17~36時間はかかるそうで、その間は焦げないように突沸しないようにかき回したり見張ってなければならない!今は皆で集まって大鍋を囲みながら楽しく一夜を過ごす地域の行事となっていることも多いです。出来上がったraisinée はスプーンですくって皿に垂らしても広がらない程度まで煮詰めてあり、瓶詰めして数年は保つそうで、一般に販売されることもあります。9月下旬から11月にかけてあちこちで行われるので興味がある方は「Nuit du vin cuit、Nuit de la raisinée」等で検索できます。(Nuit=夜)
出来上がったRaisinéeはバニラアイスやメレンゲにかける他には季節柄、Gibierと呼ばれる鹿などの狩りで得られた肉料理のソースとしても添えられます。
Raisinéeは17世紀から第二次世界大戦の終わりごろまでは当時高価だった砂糖の代わりとして使われていました。砂糖の価格が下がると一時忘れられていましたが、1980年代から地域の交流行事として復活しました。Tarte à la raisinéeはこのraisinéeをタルト生地にのせたもの。一見チョコレートに見えますね。機会があったら是非どうぞ!
ちなみにcougnarde、coignardは煮詰める過程の最後に小さく切ったリンゴやナシを加えてマーマレード状にしたものだそうです。
以下を参考にしました:
https://www.patrimoineculinaire.ch/Produit/Raisinee-Vin-cuit-Cougnarde-Biresaassa/102
https://www.vaud-terroirs.ch/en/P4420/raisinee-vin-cuit-cooked-wine
コメント
まだパイやタルトを作ったことがないのです。りんごのタルト美味しそうですね。パイ生地から、作りましたか?
生地を作るの結構好きなんですよ。バターの量にびびりますが。絶対手作り!にこだわってるわけじゃないので、躊躇せずに市販品も使います。カロリーオフの点では市販のほうがいいかも。自分で作るとある程度の厚みは避けられないし・・・バターが冷えた状態を維持するのが大事なのでパイ生地作りデビューするのに冬は最適ですよ。冬はパイ、夏はパン、と母がよく言ってましたわ。