3月7日の国民投票 「顔を覆うことの禁止」アンチ・ブルカ法の可決

「(公共の場所で)顔を覆うことの禁止」の是非を問う国民投票が3月7日にスイスであり、賛成51%の僅差で可決されました(ちなみに投票率も51%)。

dissimuler le visage(仏)-顔を覆う・隠す ではあるけれど、実際にはイスラム教徒の女性の一部が用いるブルカやニカブなど、眼だけを残して顔全体から体全体を覆う連続した布が禁止の対象になります。よりによってマスクで顔を覆うことが義務となっているこの時期に諮るとは悪い冗談のようだが、国民投票にかけるには何年もかかるのでこの時期になったのですね。ちなみに健康上の理由や地域の文化上の理由から顔を覆うのは例外的に認められるので、医療目的のマスクやカーニバル時の仮面はOKです。スイスのこの国民投票については日本でも報道されていたので目にした方も多いでしょう。

ここまで読むと、あたかも今のスイスでは全身黒づくめ(色は黒に限らないけど)の布をまとった女性が闊歩していて、これからは警察がバシバシしょっ引く、という光景が想像されるかもしれません。これは散々議論の的となったことですが、

(1)現在ブルカやニカブを身に着けて外出しているのはスイス全土で30人程度です。この方々は地元やマスコミでも有名人らしく全員の身元が把握できてるほどの人数です(スイスは狭小な土地に人が密集して住んでいるものすごいムラ社会でもあります)。しかもその内の多くは元々スイスに生まれ育ち、おそらくキリスト教的な考え方で育ったところをイスラム教に改宗し、その決意を表しているかのようにニカブ(ブルカじゃなくて)をまとっている方々なんだそうで、必ずしもムスリムが多く住む国々から移住してきた人たちではないのです。

(2)スイスでたまに見かけるブルカ・ニカブ姿の女性は、ほぼ観光客らしいです。「たまに」と書きましたが観光地では頻繁に見かけるのかもしれないけどね、私が初めて見かけたのもまさに観光、チョコレート列車ツアーの車内でした。街で車内で、ムスリムだと見分けがつく女性、その圧倒的多数は顔を覆うのではなく、頭髪を隠すために髪の生え際から首を布で覆うだけのヒジャブなどで、今回の禁止対象にはなりません。

(3)今回ブルカ・ニカブの禁止、じゃなくて顔を覆うことが禁止されたけど、そうした女性がいたとして誰が取り締まるのか?隣国フランスに比べるとスイスでの警察官の数は少ないです。駅構内を頻繁にパトロールしているわけでもありません。今は連邦政府と州の間でもめてる(話し合ってる)けど、公共の場を管理するのは州、州をまたぐ列車内ではどうすんだ、などとその任を互いに押し付けあってる感じ。本当に変な話だけど。

というわけで、そもそもニカブを規制するかどうかが問われたのは明白なのに、ニカブ姿はほぼ観光客。しかもスイスに来るのは湾岸諸国からのお金持ちでスイスでお金を使ってくれる方々。禁止したら隣のオーストリアに行っちゃうかもよ。誰得?意味がないかのような法律のために、スイスを二分する論争が起こったのは何故?

一つには、発案した右派UDCがスイスへの移民の規制を求めており、特に近年のイスラム教を信仰する人が多い国々からのこれ以上の人の流入を牽制したい、イスラム原理主義の台頭を抑制したいという面。

また、信仰を表明する人の割合がすごい勢いで減っているとはいえ、それでもキリスト教が基盤としてある国。もともとのスイスの伝統を守りたいと考える人、増えつつあるイスラム教的なものに対する反感がブルカやニカブといった目立つものに向かったともいえるでしょう。

そして何より、つい一年ほど前まで頑なにマスクを拒んだ人たちの気質。顔を見せることが自分たちのアイデンティティだと言っていた人たち。

反対派、賛成派のそれぞれについて次回もちょっと語ります。

国民投票の結果について政府の公式発表

https://www.ejpd.admin.ch/ejpd/fr/home/themes/abstimmungen/verhuellungsverbot.html

https://www.bk.admin.ch/ch/f/pore/vi/vis465t.html

Copyrighted Image

error: Content is protected !!
テキストのコピーはできません。