スイスの若者の就職事情(9)労働力の国境がなくなりつつある中で

前回スイスでは終身雇用制ではないと書きました。これはヨーロッパはどこでもそうなわけではなく、例えば隣のフランスではむしろ一旦雇用すると解雇するのが難しいらしく、これが若者の新規採用を妨げている一因にもなっています。終身雇用の是非はともかく、スイスでは大企業が少なく(自動車産業ないし、国が小さいし)雇用のほとんどは小中規模企業や自営です。賃上げや雇用を守るのが目的の労働組合はほぼなく(労組はあるけど日本のとは異なる)、簡単にクビにしてきます。バリバリ稼いでた銀行マンが「超高収入に見合った仕事がなくなった」という理由であっという間に無職になるんですよ。

Nestle(ネスレ)の本社 遠景 湖畔右端

スイスで最も雇用人員が多いのはNestlé(ネスレ)で本社がVeveyにありますが、この会社は多国籍企業なのでIT部門だったかな、現に500人が働いている部門を丸ごとそっくりスペインに移す、とかいう荒業もします。賃金や不動産など経費が高い国に会社や部署を構えている必要はないです。日本ではメーカーが製造拠点を海外に移す産業の空洞化が問題になりましたが、製造工場だけでなく頭脳や開発や管理の部分も特定の国にある必要はありません。ヨーロッパは地続きで移動が簡単ですし、もはや人や物が移動してくる必要もないのかも。

Nestle(ネスレ)の本社

スイスはSchengen(シェンゲン)協約に加盟しているので国境での検問がなくなり、周辺国からパスポート検査なしで国境を渡ってこれます。シェンゲン協約加盟国(ヨーロッパの国の多く)の国籍や居住許可を持つ人であればスイスに働きに来るのも簡単です(家探しは容易ではない!が)。高賃金にひかれていくらでも他国から労働力がやってきます。隣国に住んで毎日国境を越えて働きに来てもいいわけです。

Collège de Montriond 1915築。冒頭の写真はこの学校の別ショット

というわけで行政や公務職以外では「大」企業に就職したとしてもこれで一生安泰ということは無いです。だからと言ってスイスに住む人が次のステップや失業時に備えて日々自己研鑽に励んでいるというわけでは決してないですが、生涯学習「Foramation continue / Weiterbildung」の必要性、職に就いて以降も勉強は続くのだよ、についてはしつこく言われています。

Collège de Montriond のアーチ型

スイスでは真面目に働いていても様々な理由で割と簡単に職を失います。それを契機に学校に入りなおす話もそれなりに聞きます。進学には入学試験ではなく、その前のステップの課程を修了した証明(大学に入るのだったら大学入学資格試験)があれば、基本的には卒業してから何年後であっても入学できるわけですので。

小学校の真ん前にある公園 Place de Milan

若くて生きのいい労働者が外国からでもいくらでも補充できるとも言えるので、齢を取ってからの失業者が新たな職を見つけるのは大変な困難を伴います。外国から働きに来る人を自分たちの職を奪う人と捉え、外国人の移住を制限しようと考える人もいるし、そうした懸念を煽って力を伸ばしている政党もあります。

Place de Milan 築地の跡地も緑地にしてほしい

実際50歳プラスの私の周囲にも失業にさらされている人が多数いますが、彼らの外国人(本当に多いし私もその一人だ)への考え方は様々です。まず、どう考えても人手不足部門(やはり介護や建設現場など)では外国人労働者の存在なくしては成り立たない。

EPS de l’Elysée

その昔、時計技術はフランスから迫害を逃れてやってきたユグノー達によってもたらされスイスの一大産業になったことを始め、その他にもスイスの文化や産業の発展の多くが外国人によっていることをスイス人も自覚しています。また現在スイスに住む人の無視できない割合が祖先をスイス外に持ち、元々は「外国人」だった彼らがスイスで働き社会に溶け込み、骨をうずめてきました。やってきた労働者の子供が学校に通って現地の言葉を覚え、次の世代は社会の中核を担う仕事についていきました。言葉ができて能力があれば、外国人に対する職業差別はかなり少ないと思います。外国人が行政関連や小中学校を含む教員として働くことは普通です。

Collège de Chandieu 1950

日本では人手不足の大変な職場に限って外国人労働力を増やそうとしていますが、スイスの場合はホワイトカラー部門やCEOなどトップに至るまでの部門で普通に外国人が働いているので、じゃあ今になって外国人無しでスイス人だけでやっていけるかとそれは無理でしょう。

Collège de Chandieu の横の公園、これは小学校に属してるのか?一般に開放されてるけど。ジャングルジムがワイルド

スイスには他の国にみられる例えば「チャイナタウン」などの特定の外国人が住む一角というものがなく、またそのような一角ができて治外法権な犯罪の巣になってはならない、という意思も見られます。植民地を支配したという歴史がなく、特定の国の人を支配下に置いたり、序列を定めた過去がなかったこと、それらが今のところテロなどの発生を防いでいると思います。話が飛躍してますが。

4月25日撮影 八重桜散り始め

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